Voice vol.1 | 長谷川裕也さん

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2020.10.23 Interview

あっという間の40分でした。
革靴が、目の前でみるみるうちに輝きを取り戻していくんです。
革靴を生まれ変わらせたのは、シューズクリーナーマスターの長谷川裕也さん。
南青山の骨董通りに面した専門店「Brift H (ブリフトアッシュ)」に設置された
バーカウンターのようなスペースが、長谷川さんのステージ。
軽快なトークを挟みながら、預かった革靴を丁寧に磨いていきます。

「Brift H 」CEOシューズクリーナーマスター長谷川裕也さん

「Brift H 」CEO
シューズクリーナーマスター
長谷川裕也さん

靴磨きというと、職人は路上の片隅に座ったままで、短時間でサッと終わらせるというのがこれまでの常識。しかし長谷川さんは、この新たなバーカウンタースタイルで業界に一石を投じました。2017年には靴磨き世界選手権で優勝し、その動向にますます注目が集まっています。

これまで数多くの革靴と対話してこられ、またキプリスの財布も愛用しているという長谷川さんに、お話を伺いました。

カウンターの向こうで、まるで熟練のバーテンダーのように佇む長谷川さん。
靴磨きに集中しながらも常に背筋は正しく、丁寧に作業を進めていく様子は、
それだけでひとつの作品のようです。
靴磨き作業にどのような想いを込められているのか、気になります。

カウンターの向こうで、まるで熟練のバーテンダーのように佇む長谷川さん

2017年、靴磨き世界一に輝かれました。大会にはどのような意気込みで挑まれたのですか?

出場者を事前に調べると、「たった20分でここまでピカピカに磨けるのか!」と驚かされるような凄腕の達人ばかり。もちろん腕に自信はあったのですが、負けたとしても審査員の記憶に残るような美しい磨きをしようと決めていました。当時、茶道に入り込んでいたこともあって、姿勢や腕の動かし方などちょっとした所作にもこだわろうと考えたんです。

また勝手ながら、「僕は日本代表なんだ」という気持ちもありました。それらがどこまで影響したかわかりませんが、総合的に高評価をいただき、優勝することができたんです。仕事の中身は大会優勝の前後で変わっていませんが、やはり世界一の称号は大きく、メディアや他の競技大会から声をかけていただく機会は増えましたね。

靴磨きの様子

長谷川さんといえばバーのようなカウンタースタイルで靴磨きをするという、まったく新しいスタイルを確立した第一人者です。なぜこうしたスタイルを実現されたのでしょう?

このスタイルのほうが様になるんです。20歳のときに路上で靴を磨きをはじめ、装いにはかなり気を使っていたのですが、とあるアパレルのディレクターの方から「かっこ悪いね」と言われてしまいまして。もっと服装や立ち振る舞いがよく見える方法はないかと考えた末、たどりついたのがこのスタイルでした。実際、お客様が靴を履いたままで作業する従来の手法より、100%の磨きができるんです。靴を完全に脱いでいただけると、コバの処理まで美しく仕上げられます。

また、この仕事はお客様とのコミュニケーションも大切。革靴の話からささいな雑談まで、充実した時間をお過ごしいただけるよう配慮しています。正直、当店は他の靴磨き屋さんよりも高額の料金を頂戴しています。しかしその分、磨きの仕上がりから当店でお過ごしいただく時間まで、ご満足いただけるよう努めています。そうして、「靴磨きの価値」を高めていきたいと考えているんです。

「靴磨きの価値」、ですか。

業界の第一人者として、靴磨きの価値、さらには革靴自体の価値を広めることも責務だと感じてます。「やっぱり靴磨きすると違うよね」「革靴っていいよね」と、みなさんに思ってもらいたい。スニーカーって、買った直後のキレイな状態が一番テンションが高いじゃないですか。でも革靴の場合、使い込むほどに革の風合いが増すという楽しみがある。放っておくと汚れも目立ちますが、キチンとケアすれば魅力が際立ってくる。そうした楽しみを、もっとしっかり伝えていきたいんです。

Brift H 店舗

15年以上にわたり、履き込まれた革靴を目の当たりにしてきた長谷川さん。
皮革専門機関の講習会で革の性質を勉強しつつ、
実際の経験を通じて革についての見識を深めていったといいます。

長年革を見続けてきた中で、なにか変化を感じますか?

ありますね。年々、品質の良い革に出会う機会が減っているように感じます。僕が靴磨きを始めた当時でも「年々革が悪くなってきた」という話があり、ずっと続いている傾向なのかもしれません...。昔のほうが、「ものすごく良い革」があった気がしますね。もちろんそれは確率の問題で、今でもすばらしい革を使った製品は存在していますけども。

店内写真

良い革とそうでない革はどう違うのでしょうか?

やっぱり表面がなめらかなんですよね、いい革って。ケアもしやすくて。昨今、ファッショトレンドや環境に対する意識の変化から革靴がおかれた状況は大きく変わりつつありますが、品質を重視するユーザーは着実に増えていると思います。良い革を使った製品がたくさん出てきてほしいですね。

革へのこだわりが長じて、オリジナルのケアグッズも開発されたそうですね?

はい。おそらく世界で初めてだと思うのですが、靴クリームを化粧品メーカーに作ってもらいました。石油系が一切入っておらず、人の肌にも塗れるほど優しいクリームなんです。革靴を大切に扱いたいのなら、やはりケアグッズにもこだわるべきなのだと思います。

Brift H オリジナルのケアグッズ

人前に立つ仕事ゆえにスタイリングにも人一倍こだわり、
納得のいくモノだけを身につけるという長谷川さん。
お財布や名刺入れは、キプリスの製品を愛用されているのだとか。

愛用されている「キプリス」コードバン&シラサギレザーの長財布とホーウィンシェルコードバンの名刺入れ▲愛用されている「キプリス」コードバン&シラサギレザーの長財布とホーウィンシェルコードバンの名刺入れ

これらの革小物を愛用される理由はあるのですか?

以前からキプリスの名前は知っていたのですが、ちょっとしたご縁を通して実物に触れる機会がありました。そのときメイドインジャパンのモノ作りにこだわっていらっしゃることを知り、感銘を受けたんです。工房を見学させていただきましたが、伝統的な縫製技術を大切にし、1つ1つ丁寧に作業されている様子を見て、改めてクオリティの高さを理解しました。いわれなければ気づかないような細部にまでこだわるというのは、合理性を求める現代において、すごく貴重なことだと思います。非常にクリーンで整理されていて、そこでみなさん真面目に作業されている姿も印象的でしたね。

使われているお財布の革素材はなんですか?

コードバンです。だんだんと風合いが増していっているのが楽しいですね。水牛の角でできたスティックで表面の繊維を寝かせてあげると、いいツヤが出るんですよ。とても品質に優れた革だと感じています。また、キプリスではマイナーな革に魅力的な加工を施し、積極的に表舞台に出していこうとしていると聞きました。僕も、靴磨きという今までマイナーだった仕事に新しい価値を加えてメインステージに持っていくことを目標としているので、そういう姿勢にも共感しています。これからも魅力的な製品を提供してもらいたいですね。

水牛の角でできたスティックで表面の繊維を寝かせる

今後は、革靴の本場であるロンドンやニューヨークへの世界展開も視野に
活動を続けていくと話す長谷川さん。
その匠の技と革へこだわりで、これからも多くの人を夢中にさせていきます。

Brift H CEO 長谷川裕也

Brift H CEO
長谷川裕也 Yuya Hasegawa

1984年千葉県出身。Brift H(ブリフトアッシュ)代表。高校卒業後、地元製鉄所の三交代勤務、英会話学校の営業マンを経て、2004年20歳のときに丸の内の路上で靴磨きを始める。2008年、南青山にカウンタースタイルの靴磨き専門店Brift Hを開店。2017年にはロンドンで開催された第1回靴磨き世界選手権で優勝し、世界一の靴磨き職人の称号を得る。

Text : Hiroyuki Yokoyama
Edit : FIRST

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